FLUENTE店長の四方山話

自転車について徒然につづっています。

フロントフォーク考 3

ストレートフォークの剛性過剰により起こる現象について書きましたが、今回は、フロントフォークの剛性不足により起こる現象について書きたいと思います。

鉄製でベンドタイプのフロントフォークには、フォークの曲線の出し方に様々な種類があります。

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写真と図は、ツーリングモデルのフロントフォークで「先曲げ」や「先溜め」と呼ばれるフォークの曲線の出し方です。

ランドナーやスボルティーフをオーダーするにあたって、フォークの曲げの美しさにこだわる方が多く、先曲げ/先溜めの曲線は、人気の高いフォークの曲線の出し方になっています。

先曲げ/先溜めのフォークは、フォークブレードの先端部の細くなっている部分を曲げていて、路面の凸凹をしなやかに受け止めるために心地が良く、身体に負担を掛けないように長時間走り続けるツーリングモデルに向いているデザインです。

イラストは、1940年代にダニエル・ルブールが描いたフランスのサイクリング協会推奨のフェデラルと呼ばれるモデルでです。
フロント周りのスケルトンが表されています。
キャスター角が70~70.5°、オフセットが65~75mm、トレールが40~50mmになっていますが、フロントバックの使用を前提として荒れた路面の走行も考慮された、650Bの太目のタイヤと思われるタイヤ径のツーリングモデルとしては妥当な数値でしょう。
これに比べて、日本のいわゆるランドナーのヘッド角が如何に立った角度なのかが良く分かります。

閑話休題

先曲げ/先溜めのフォークの乗り心地は確かに優れているのですが、走行条件とフォークの剛性バランスによっては、自転車のコントロールがままならない状況に陥る場合があります。

シクロクロスに参戦するためにクロモリのロードレーサーシクロクロスに改造して貰ったことがあります。
改造に伴って、フロントフォークを新たにビルダーのお任せで製作してもらいました。
路面からの衝撃を和らげるために、プレスのクラウンと先曲げのフォークブレードを採用した全体として剛性を落としたデザインのフォークになりました。
フォークオフセットを自分好みに調整して貰い、バランスの良い乗りやすいシクロクロスに仕上がり、シクロクロスに参戦して楽しんでいました。
あるレースの試走で、10cm程度の湿った雪の中を走行する場面がありました。
なんとか走行可能な状態だったので、乗って行けるのと行けないのではレースでは大差が付きます。
乗ってクリアできるようにと探りながら走っていたところ、突然ハンドルが弾かれたように左右に切れ、倒れないものの
走り続けることができなくなります。
ハンドルを取られるのは、ハンドルを抑える力が足りないと思い、肩と腕に力を込めて抑え込みましたが状況は変わりません。
観察してみると、雪の抵抗により前輪が勝手に左右に向きを変え、一瞬後にハンドルが弾かれたよう前輪と同じ方向に切れていました。
同じような現象は、湿ったダートの轍でも起こりました。
フロントフォークのねじれ剛性が、この走行条件では不足していて、どんなにハンドルを押さえ込んでも路面の抵抗により前輪の向きが変わり、フロントフォークが捻れたスプリングのように作用してハンドルを曲げるために、自転車を制御できなくなるのです。

多少凸凹した路面を走行する場合にはまず起きない現象ですが、ダートやグラベルを走行する場合には、路面状況とフォークのねじれ剛性によっては起こりかねません。
特に、荒れた路面を走行することを前提としたシクロクロスやパスハンターなどでは、乗り心地とフォークのねじれ剛性とのバランスを考慮してフロントフォークのデザインを決定する必要があります。
上記の経験から、新たにオーダーしたシクロクロスでは、フォークの曲げを大きく緩やかに曲げフォークブレードの径を太くして、フロントフォークの剛性を向上させたデザインにしています。

同様の現象は、MTBのサスペンションフォークでも起こります。

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軽量のXCレース向けのサスフォークで、岩がガレている場所を走ると、前輪が岩に当たって向けを変え、その後捻れたフォークによりハンドルが弾かれたように同じ方向に取られます。
XCレース向けのサスペンションフォークは、軽量化に重点をが置かれているために捻れ剛性が十分ではありません。
基本的には、ガレ場などは無理せずにやり過ごして、平地や登りで軽量を活かして走力で差を付けるという考えた方でデザインされています。

近年、採用が増えているスルーアクスルのモデルは捻れ剛性が向上していますが、サスフォークのインナーチューブ径が太くデザインされているオールマウンテン向けのモデルとは比べようもありません。
サスペンションフォークを選ぶ場合は、重量だけで無く、どんな路面状況をどのように走りたいのか(荒れた路面をそっとやり過ごすのか積極的に走破するのか)を良く考えて選ぶ必要があります。