FLUENTE店長の四方山話

自転車について徒然につづっています。

引き足について

ペダリングの話になると必ず出てくる「引き足」ですが、様々なことがいわれています。

引き足を意識すると効率の悪いペダリングになるので、ペダルを踏む動作の後は脱力して、ペダルを踏んだ惰性で足を踏み始めのポイントに戻せば良い。」、「ペダルに掛かる力を測定しても、引き足と呼ばれているペダリングの部分で有効な出力は測定できないので、引き足とといわれている動作を行なっていない。」など、引き足という動作は無駄で必要がないという話を目にします。

図は、競輪の中野浩一さんが現役時代に記録したもので、良く知られているものです。
矢印が、ペダリング中のペダルに掛かる力の大きさと方向を表しています。

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この図を参考にして引き足について考えてみましょう。

単純に考えても、引き足という動作を行わない場合、脚の重量と慣性力によりペダリングのアップストロークで大きなマイナス方向の力が記録されるはずです。
この図では、アップストロークの範囲で大きな力はプラス方向にもマイナス方向にも掛かっていません。
慣性力と脚の重さをキャンセルするのに必要最小限の力で引き足の動作を行っていると推測できます。
引き足とは、踏込み側の出力を妨げないように、踏込み側の脚の動きをフォローするように行うものなので、大きな力は必要ないのです。
引き足が使えると足を上げるときにも力が出せるから出力が増えるということを言われ方もいるようですが、引き足の動作で力を入れてしまうと踏み出しが遅れてしまい、下死点側に遅れて踏込みを行うことにもつながり、ペダリングの効率が悪くなってしまいます。
これが、引き足を意識し過ぎるとペダリング効率が悪くなると言われる理由です。
引き足を行う上で大切なことは、力を入れることよりも素早さ、スピードになります。

アップストロークでの脚の慣性力と重量をキャンセルする、つまりペダルに伝えないためには、ペダルが上がって来る速度と同じか僅かに早い速度で足を引き上げる動作が必要になりますし、踏込み側の上死点の通過をフォローする引き足でもペダリングの踏込み速度と同等か僅かに早い速度で足を後方に引く動作が必要です。
ケイデンスでのペダリングを行ったことのある方は良くお分かりだと思いますが、引き足が素早くスムーズに行えないとサドルの上でお尻が跳ねる現象が起きて、ケイデンスが上げられなくなります。
これは、引き足の動作の速度が遅過ぎて脚の慣性力と重量がペダルに伝わってしまい、脚にお尻が跳ね上げられるために起きる現象です。

アップストローク後半から上死点を越える動作の際に足がペダルから浮き上がろうとする動きを抑えずに、反対側の脚の引き足を使うことで足の上死点の通過をフォローするとサドルの上でお尻が跳ねなくなり、引き足の動作の速度を上げて行くことでケイデンスも上がって行きます。

固定ギヤで高ケイデンスに挑戦すると、引き足の動作の遅さを痛感させられます。
フリー機構がないので車輪の回転に比例してクランクが回転するために脚の動きを誤魔化すことができません。
私の経験では、フリー付きのときよりも2倍速いイメージで引き足を使わないと間に合わないと感じました。

ケイデンス時の引き足では、とにかく速度が重要になるので、脚を素早く動かすことに専念したくなります。
特にアップストローク側の脚の動きを素早くしようとするとペダルから足が外れてしまい素早い動きができなくなるので、足をペダルに固定する方法が必要になってきます。
トークリップとストラップでもある程度は役に立ちますが、踏込み側の上死点通過をフォローする後方への引き足の動作ではクリップから足が抜ける方向の動作なので、無造作に素早く動かすとペダルから足が離れかねません。
足の固定の確実さと一般の道路での使い勝手を考えると、ビンディングペダルの使用が一番有効だと思います。
足を固定して高ケイデンスペダリングを身に付けると、フラットペダルを使用しても高ケイデンスペダリングができるようになります。

次の図は、中野さんのペダリングから慣性力と脚の重量など計算し、グレーの矢印で表された出力と方向を検出するためにはどの方向にどれだけの力を入れる必要があるかを類推して、黒い矢印で表したものです。

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死点手間から引き足を使い始め、アップストロークでははっきりと足を上方に上げる力を掛けています。
アップストロークの最後の方では、引き足を辞めて踏込みの動作に入っていることが分かり、上死点では下方に向けて踏込み始めています。
ペダリングの上級者程前後方向の力を大きく使っていて、ペダルの踏み出しが早く、踏み終わりから引き足に移行するのが早いというレポートがありますが、中野さんのペダリングはまさにそのとおりです。

一般的に、ペダリングの上死点と下死点は時計の12時の位置が上死点、6時の位置が下死点とされていますが、動的な上死点と下死点はシート角分だけ傾いていています。
動的な上死点と下死点を意識してペダリングを行うと、シート角分だけ 踏み出しを早くしようとしますし、シート角分だけ踏み終わりと引き足の始まりを早くしようとします。
前後方向に足を動かす意識も持ち易くなるので、ペダリングの効率を高めることができます。